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【解説】2016年のノーベル生理学医学賞は「オートファジー」のメカニズム解明に

ノーベル賞財団は3日、2016年のノーベル生理学医学賞を、大隅良典氏に贈ると発表しました。受賞理由は “for his discoveries of mechanisms for autophagy(細胞自食作用のメカニズム発見に対して)” となっており、同分野での日本人の単独受賞は1987年の利根川進氏に続いて2人目となります。

今回の受賞は、「オートファジー」と呼ばれる現象のメカニズムを解明したことに対して贈られたものですが、オートファジーと聞いてどのようなものか、ピンと来るでしょうか?高校で生物を選択していた人には耳なじみがあるかもしれませんが、生物が生命活動を維持するうえで非常に重要な機能なのです。本記事では、そうしたオートファジーが持つ役割と、大隅氏の成果について簡単に紹介したいと思います。

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細胞の内部には、細胞核や小胞体、ゴルジ体と呼ばれる小さな器官が存在しています。これらは総称して「細胞小器官」と呼ばれており、それぞれの役割に応じて細胞を正常な状態に維持するために働いています。

こうした細胞の活動には、様々なタンパク質が関与しています。我々の毛髪や爪、皮膚といった体の組織が時間の経過とともに入れ替わるように、細胞レベルでもまた、健全な状態を維持するためには古くなった細胞内のタンパク質を回収し、新しいものと入れ替える仕組みが必要となります。もし、蓄積した老廃物が回収されなければ、細胞は正常な活動を維持することが出来なくなり、ひいては様々な疾患を引き起こす原因になってしまいます。

細胞の「ゴミ捨て」

細胞が持つ「リサイクル」の仕組みは、1960年代にベルギーの科学者Christian René de Duve氏らによって初めて発見されました。

オートファジー(autophagy)」と名付けられたこの仕組みについて簡単に説明しますと、細胞内で不要になったタンパク質が膜で包まれた「オートファゴソーム(Autopagosome)」と呼ばれる状態になり、そこに分解酵素を含んだ細胞小器官「リソソーム(lysosome)」が融合することで、標的のタンパク質が分解されるというものです。この発見をきっかけに、細胞内部の “リサイクル”メカニズムの解明に大きな注目が集まります。

この時点では、オートファジーの存在については明らかになっていますが、そのメカニズムや詳細な機能についてはまだ解明されていませんでした。

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リソソームの発見についで、1980年代にはもう一つの細胞内リサイクル機構に関する発見がありました。「ユビキチン-プロテアソーム系」と呼ばれる仕組みで、不要になったタンパク質などの分子にユビキチンという分子を目印としてくっつけ、プロテアソームという酵素で分解するというものです。

ユビキチン-プロテアソーム系の詳細については、以下をご参照ください。
2004年ノーベル化学賞『ユビキチン―プロテアソーム系の発見』 (Chem-station)

それまで生成プロセスや個別の機能ばかりが注目されていた細胞内のタンパク質ですが、これらの発見により、作られたタンパク質が分解・排除される仕組みを解明しようとする研究が飛躍的に拡大することとなりました。

酵母でのブレークスルー

しかし、このユビキチン-プロテアソーム系は細胞内に落ちている比較的小さなゴミをくずかごに回収・廃棄するような仕組みなのですが、より大きな “粗大ごみ” とも言える巨大なタンパク質複合体などを排除する仕組みについては、明らかになっていませんでした。

大隅氏がオートファジーの研究に取り組み始めた1988年当時、様々な研究結果から前述したオートファジーが「粗大ゴミ処理機」の役割を担っているものと考えられていましたが、当時は決定的なメカニズムモデルが提唱されないままの状況でした。というのも、酵母菌の細胞は非常に小さいため、オートファジーによって生じるわずかな内部構造の変化を詳細に観察することは困難だったという事があります

そこで大隅氏のグループは、酵母の細胞中に存在している「液胞(vacuole)」という小器官に着目します。この液胞、当時は単純に老廃物を蓄積しておくための器官という説明が定説となっており、分解機能を持つものとは考えられていませんでした。大隅氏は、液胞にリソソームのような分解機能が存在していると仮定し、この中に含まれる分解酵素を遺伝子操作で生産できないようにすることで老廃物が細胞中のオートファゴソームに蓄積、顕微鏡で観察できる大きさに膨張するのでは?と考えました。

研究グループが酵母の遺伝子を制御しつつ約5000種類ものサンプルを調べた結果、仮説は見事に的中。特定の遺伝子をノックアウトして飢餓状態に置いた酵母の細胞内では、分解されなかったタンパク質がオートファゴソーム内に蓄積し、顕微鏡で観察可能なレベルにまで膨張していました。これにより、液胞が単純なゴミ箱ではなく、溜まった不要物を処理する機能も備えていることが明らかになったのです。

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その後も研究を進めた結果、大隅氏らのグループは酵母のオートファジー発現に関わっている15種類の「ATG遺伝子群」を特定するとともに、菌類のような原始的な生命から人間に至るまで、あらゆる生物の細胞でオートファジーの作用が発生していることを示した研究成果を発表しています。

今後の展望

近年、がんやアルツハイマー、パーキンソン病、糖尿病などの特定疾患とオートファジーの関係を探る研究が盛んに行われています。特に、細胞分裂が生じない神経細胞ではオートファジーによる細胞内リサイクルは非常に重要な意味を持っており、アルツハイマーなどの神経疾患の発病と密接な関わり合いを持っていると考えられています。

オートファジーの詳細なメカニズムについてはまだわかっていない部分も多く、例えば前述したリソソームとオートファゴソームの融合過程についても、詳細な解明はまだ済んでいません。今後研究が進んでいくことで、オーダーメイド医療や次世代創薬などの分野でも大きな知見がもたらされる事が期待されますが、そうした研究につながる基盤を築いたという意味でも、大村氏の成果は非常に大きなものと言えるでしょう。

 

This article is based on:
The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2016

東京工業大学の大隅研究室ウェブサイトはこちら

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